活動報告:オンライン・トーク「飯川雄大の思考をつかまえる」

talk0830_2.JPG右:飯川雄大(いいかわ・たけひろ)さん、左:木村学芸員

市民のアトリエは、「ヨコハマトリエンナーレ2020」の関連プログラムを二つ実施しました。
今回は、830日に開催したオンライン・トーク「飯川雄大の思考をつかまえる」をご紹介します。

飯川雄大さんは、「ヨコハマトリエンナーレ2020」の参加アーティストで、PLOT 48に作品を展示されました。
この日はウェブ会議システムZoomを用い、当館主任学芸員、「ヨコハマトリエンナーレ2020」企画統括/キュレーターの木村絵理子学芸員を迎え、前半はトーク、後半はワークショップという二本立てで実施しました。

talk0830_9.jpg《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》2020年、「ヨコハマトリエンナーレ2020」(プロット48)での 展示風景、撮影:飯川雄大

前半のトークでは、「ヨコハマトリエンナーレ2020」の出品作品《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》について、そのタイトルにある「デコレータークラブ」とは何なのか、また、同時期に開催された高松市美術館での個展の様子などについてお話しいただきました。

talk0830_10.jpg「飯川雄大 デコレータークラブ-知覚を拒む」展(高松市美術館、2020年)での展示風景、撮影:飯川雄大

後半は、4コマ漫画のうち3コマ目までが描かれた課題に対して、参加者が自由に4コマ目を考えるワークショップをおこないました。
Zoomの画面共有で出題して、参加者の皆さんにはお手元の紙とペンで4コマ目を描いてもらいました。

お題はこちら

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画面越しに発表していただいた作品をいくつか紹介します。

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皆さんこの日のこの状況をうまく取り込んだ4コマ目を披露してくださり、飯川さん、木村さんも大きな拍手!

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このワークショップでは「オチ」を他者の手に託すことによって、様々な漫画が生まれ、そのバリエーションをみんなで楽しむことができました。
このように他者が介入することで作品が変化し、様々に解釈されていくということは、今回の飯川さんの出品作品にもつながるところではないでしょうか。

本プログラムは、もともと参加者の皆さんを横浜美術館にお迎えして開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、オンラインでの開催に切り替えました。
画面越しのやり取りがうまくいくかどうかスタッフが心配していたことが嘘のように、質疑応答もワークショップの作品発表も止まることがなく、準備していた2つ目の4コマ漫画の出題をあきらめるほどでした。

この時間内では伺いきれなかった内容について参加者の皆さんから質問をいただきましたので、飯川さんからの回答を以下に掲載します。

(市民のアトリエ担当)


Q 立体作品を制作する際には模型等を作成されますか?PC上でシミュレーションをするのでしょうか?

A 模型を作ります。PC上で鑑賞者の視線の位置や視野角、鑑賞者にどう見えるのか等を試しながら作ります。今回の作品は、何度も模型を作って動かしては直しての繰り返しでした。模型を作ると、安全にできそうだという見直しも立てられるし、一緒に作る施工の方も企画者の人も安心するし、いいことだらけなんです。ただ模型では見えない、現場での調整や変更の部分はたくさんあります。でもそこは作っていて一番面白いです。

talk0830_11.jpg《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》2020年、「ヨコハマトリエンナーレ2020」(プロット48)での展示風景 撮影:大塚敬太、写真提供: 横浜トリエンナーレ組織委員会

Q 作品を制作する際になにか気づきのためのアフォーダンスを設けようとは思わないですか?あくまでも自主性に任せるということなのかな

A 今回の壁や構造物の作品については、手がかりのようなものや示唆的なものは、少なく設計しているつもりです。何か起こった時に身動きが取れないようなものは危ないので、施設の消防法に関わる避難経路や安全に鑑賞してもらうことについては、強く意識しています。今回は、ある想定した時間内に監視誘導員と一緒に展示を見てもらわないといけなかったし、見て欲しい気持ちもあって、ゲームみたいに、鑑賞者に対してヒントのようなものを散りばめたりしました。次また建築物を使って展示を作る機会がある時は、展示空間の壁と同じような素材や見た目で、より鑑賞者が戸惑うような作り込んだもので試したいと考えています。あと、鑑賞に使う時間も自由にしたいです。「どうなってるの?」と想像する時間が多ければ多いほど面白くなるし、できる限り鑑賞者の自主性に任せたいと思っています。

talk0830_12.jpg《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》2020年、「ヨコハマトリエンナーレ2020」(プロット48)での展示風景、撮影:飯川雄大

Q 映像作品と空間造形の作品について、その関係性はどのようなものになりますか?

A 関係性はあったり、なかったりです。映像作品って観るのがしんどくて、作家として作っていても、これは長くて誰も観ないなとか、この空間では観る人が辛そうだなとか、面白いかどうかわからない映像作品を、何分も何時間も鑑賞者が観るとは思えないです。面白い保証がなくても観てくれる状況って、展示場所や作家が有名とか、これまでの作品が面白いとかなどの信用が必要で、そうでない場合は自分もあまり見ないです。何にも工夫がないなら、普通に映画館の方がいいです。だから、観せる工夫が必要で「観たい」と思わせるまでを考えないと、と思います。自分の映像作品を観てもらいたい時は、空間を作り込んだり、観るまでのアプローチをたくさん考えます。鑑賞者を引き込むというのでしょうか。それが当たり前にできている作家の作品が好きです。今回の作品は「デコレータークラブ」というシリーズの中でも空間造形が軸の作品です。鑑賞者を引き込んだり、戸惑わせたりするのは圧倒的に空間造形の方が向いていると思います。同じ展覧会内で映像作品と空間造形の作品の関係性を考えるとすると、映像作品を観せるのは、空間造形の作品を観た直後や途中など、鑑賞者が戸惑ったり、興味を持ちかける時が一番いいタイミングだと思ってます。今回のインスタレーションでは三つ目の部屋に、映像を見るしかない状況を作りました。

talk0830_13.jpg《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》2020年、「ヨコハマトリエンナーレ2020」(プロット48)三つ目の部屋の展示風景、撮影:飯川雄大

Q 観客のことを考えるようになってご自身の中で何が一番変わりましたか?「自分は好き」の感覚は減ってしまいましたか?

A 自分の作品が好きという気持ちは減らないです。制作段階や展示途中で、作品を好きな感覚や興味が減ってしまう感じは、作品として強度がない時だと思います。やってみないとわからないことで、実際やってみて「これはあかんな」ということは結構あります。観客のことを考えるのは大好きです。だんだん、観客になる可能性のある人達へ伝わる「最初の情報」に対して特に意識が向くようになりました。チラシやポスター、SNS等の展覧会情報や画像は、プロに任せたらいいとも思うのですが、そこからもう作品の見え方や捉えられ方が決まってくるし、どうにかして作品の前に誘導することは、作家の責任でもあるし、意識します。作品のアイデアも、作品を実際に成立させることも、それが面白いのかどうかもとても重要ですが、「最初の情報」についての責任は、作品を作る時の熱量と同じかそれ以上のものがいるなと思います。でも、広報や情報のことだけではないので、そもそも一人では無理やなと思います。これまで、自主企画展とか小さい規模の展示やイベントをしたこともありますが、信用がない場所で信用のない作家が真剣に作品を作るだけだと、全く成立しなくて、ただ疲れるだけで。「ヨコハマトリエンナーレ2020」で考えると、横浜市の方、キュレーター、企画・広報・記録、エピソードの担当、予算管理をする人、警備員、監視員、作品の側で一緒に現場調整するコーディネーターとかいろいろなプロが「展覧会場で観客に作品を見せる」という目的に集まっていて、すごく贅沢でした。今回はコロナで大変でしたが現地制作で今までで一番作品に集中させてもらえたんです。自分は作家として 純粋に作品を作るだけじゃなくて、作品のために観客にどうやって情報を伝えて、どう見せるかまでを考えて動くチームみたいなものを作っていく必要があると思いました。

talk0830_14.jpg《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》2020年、「ヨコハマトリエンナーレ2020」(プロット48)での 展示風景、撮影:飯川雄大

Q 30代は会社員をしながら作家活動をしていたということですが、アーティスト一本でやっていこうと思ったきっかけはどのようなことがあったのでしょうか。会社員時代に作ったものと一本でやり始めてから作ったものに何か違いは感じますか。

A 会社員の時、仕事中にネットニュースを見ていたらアートコレクティブの「contact Gonzo(コンタクトゴンゾ)」が美術館でパフォーマンス!みたいな記事を見つけて、即興で体をぶつけたりモノを飛ばしたり、危険でしかもめちゃくちゃ楽しそうで、なんやこれ!?今はこれが注目されてるのか!ってなって。アートの現場と距離を置いていたし、情報もあまり入れてなかったので、同じ関西なのに名前も活動も全く知らなくて、とにかく衝撃を受けました。会社員の時も、数年に一回はギャラリーで作品展示はしていたんですが、完全に片手間で、後悔が残る展示が続いてたし、これではあかんと考えて辞めました。会社を辞めた時に何人かに報告したら笑ったりお金の心配をされたりしたけれど、金氏徹平さんだけ「おめでとう、これからやな」と言ってくれたことがすごく印象に残っています。違いというと、作家活動に集中する時間が増えたことは大きいです。作品を作るだけでなくその前後のこと、記録や作品を知ってもらう作業にも時間をかけられるようになりました。アート活動と別の仕事をしながらは、自分の場合はまったく合ってなかったです。気がつくのに十年以上かかりました。

talk0830_15.jpg《デコレータークラブ ―ベリーヘビーバッグ―》2020年、「ヨコハマトリエンナーレ2020」(プロット48)での展示風景、撮影:大塚敬太、写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

Q 飯川さんのこれからなりたいアーティスト像についてお聞きしたいです。

A 展覧会の依頼を受けて作品を発表するスタンスは楽しいし、続けたいんですが、依頼はいつでも途絶えそうだし、それとは違う形で、自分のチームを作って作品発表の企画や資金集めができる必要があるなと思います。作品販売もすごく大事で、今は特定のギャラリーと仕事をしていないし、チームでやるか自分でやるしかないと思っています。今回出品した「デコレータークラブ」というシリーズは、2007年からいろいろな手法で制作してきたのですが、最初は世界中のアーティストに匿名で参加してもらう企画だったんです。でもまったく集まらなくて自分で始めました。学生時代に匿名のアーティストの「アイデアル・コピー」が好きで、めっちゃ面白いのに不在な感じの活動に影響を受けています。イラストも描けて映画も作っていた和田誠さんが好きです。今回の出品作家の中だと、田村友一郎さんになりたいです。どんな物や場所からでも物語を紡いで作品にできるところがすごいです。いつも新作を依頼されているし、信頼がすごくあるのだと思います。

Q 今回の他の展示作品の中で、共感できるものはありましたか?あれば、どの作品ですか?

A ズザ・ゴリンスカさんの《助走》という作品です。変な形のカーペットの上を歩く作品で、歩いていて手応えがなくて、厚みや形、角度は違うのに均一的な体感というか、何をやらされてるのかわからなくなる。

[オンライン・トーク「飯川雄大の思考をつかまえる」 実施 2020/8/30(日)14:00~15:30]