活動報告:横浜市芸術文化教育プラットフォーム[小田中学校]

横浜美術館では、横浜市芸術文化教育プラットフォームの取り組みとして2019年度に3つの学校で出張授業をおこないました。

横浜市芸術文化教育プラットフォームとは、横浜の子どもたちの創造性をはぐくみ、豊かな情操を養う機会を拡大することを目的にした活動で、平成16年度から「学校プログラム」をおこなっています。
音楽・美術・演劇・ダンス・伝統芸能など、幅広い分野で活躍している芸術家(アーティスト)が、直接学校へ出かけるプログラムです。

今回はそのうちの一つ、横浜美術館が実施した横浜市立小田中学校での授業についてレポートします。

IMG_7187_s.jpg

2019年12月23日、横浜市金沢区の小田中学校の3年生を対象として鑑賞プログラムを実施しました。ご担当の先生と事前に打合せをした際に、2年次の美術の授業でアニメーション制作をおこない、生徒たちが熱心に取り組んでいたことと、3年次春の修学旅行で広島・京都を訪れたことをお聞きしました。
そのお話から、生徒の皆さんに興味を持ってもらい、今後の進路を考える参考にしてもらえるように、アニメーション美術監督として活躍する林孝輔さんを講師にお迎えすることにしました。
林孝輔さんは、数多くのテレビシリーズ作品や劇場作品の背景美術を担当し、映画「この世界の片隅に」(2016年)では美術監督を務めています。

この日の講演は、アニメーションにおける「背景美術」についての説明と、これまでの林さんの仕事を紹介するところから始まりました。
大きなスクリーンにアニメーションの背景画が投影されると、生徒たちは目を輝かせて見入っていました。
「思い出のマーニー」、「海獣の子供」、「言の葉の庭」など、きっとこれまでに見たことのあるアニメーション作品もあったのではないでしょうか。

IMG_7176_s.jpg

続いて、「この世界の片隅に」の一点の背景画に着目した映像を上映しながら、制作工程を紹介しました。
広島県呉市の灰ヶ峰という山の上から海辺を望む場面の背景画です。
まず監督補の浦谷千恵氏の原図を、林さんが整理しながら鉛筆で下描きをおこないます。
それをコピーしたものにポスターカラーで着彩します。
リズム感を大切にしながら、描きこみ過ぎないように全体のバランスを見て仕上げていきます。
最後にスキャナーで読み込んでデータ化し、コンピューターで色調整をおこなって一枚の背景画が完成します。
この一場面のために3日間が費やされています。
この背景画の制作方法を知った後、映画本編の部分を鑑賞しました。
驚くことに、3日間かけて描かれた背景画が映画に登場したのはわずか2~3秒ほどです。
一つの作品のために膨大な人の手と時間がかかっていることがわかります。

IMG_7131_b_s.jpg

講演の休憩時間には、この日のために特別にお持ちいただいた背景原画を自由に鑑賞できるようにしました。
生徒の皆さんは原画をじっくりと鑑賞し、積極的に林さんと話をしていました。

講演の後半は、林さん自身が中学生、高校生、大学生、社会人としてこれまでどのように歩んできたかをお話してくださいました。
林さんは中学・高校時代にプロのサッカー選手を目指していましたが、自分の実力が及ばないと気づいたときに大きな挫折を味わったと言います。
その挫折を乗り越え、サッカーの次に好きだった絵を描くために美大に進学することを決めます。
そして大学で日本画を学んでいたとき、スタジオジブリの作品の美術監督である男鹿和雄さんの背景画に出会い感銘を受けて、アニメーションの背景美術を仕事にしたいと決心します。
卒業後はテレビ作品の背景美術を手掛ける会社に就職して経験を積みます。
この頃は一日に背景画を約20枚も描く猛烈なペースで働いていたそうです。
スタジオジブリの作品に参加することを夢に抱き続け、仕事を始めて7年目、3度目の挑戦でついに「思い出のマーニー」の背景美術の仕事を得ます。
このときの仕事は今振り返っても楽しい時間だったと言います。

IMG_7192_s.jpg

このような経験から林さんは
「思い通りにならないことも多いけれど、そんなときにも何か楽しいことをみつけてほしい。」
「人生は思ったよりも長くないかもしれないので、恥ずかしがって何もしないのは時間がもったいない。」
「もし自分や友人が挫折することがあったとしても、自分や友人を責めないでほしい。」
と中学生にメッセージを送りました。

 林さんは、12月20日に公開が始まった「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」でも美術監督を務めています。
予告編を上映し、
「75年前にあった出来事にかなり忠実な作品です。主人公のすずさんは19歳で、今のみんなの年齢とそんなに遠くない。今は難しく感じるストーリーかもしれないが、いつか見てほしい作品です。」
とお話されました。

IMG_7136_b_s.jpg

講演の後にはたくさんの質問も飛び出し、生徒の皆さんの関心の高さがうかがえました。
進路選択を間近に控えた中学3年生にとって、林さんの実体験に基づくお話は大きな刺激になったのではないでしょうか。
これから未来へ羽ばたいていく生徒の皆さんにエールを送りたいと思います。

(市民のアトリエ担当)

[横浜市芸術文化教育プラットフォーム 小田中学校 実施 2019/12/23(月)13:30~15:20]


横浜市芸術文化教育プラットフォーム