活動報告:画家の話し―桑久保徹とみるオランジュリー美術館コレクション

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市民のアトリエでは、「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展の関連企画として、画家の桑久保徹さんを講師に迎えたトークイベントを開催しました。
桑久保さんは近年、自身が尊敬する画家の生涯をひとつのキャンバスに描く「カレンダーシリーズ」を手掛けています。
本展出品作家13人のうち、なんと11人の作家をこれまでの作品の中で取り上げたことがあるということで、本展について現代の画家の視点から語っていただこうとお招きしました。

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前半は桑久保さんの創作について、2014年から取り組んでいる「カレンダーシリーズ」を中心にお話を伺いました。
初めにこのシリーズのきっかけとなった本が紹介されました。

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『Künstler und ihre Häuser』という本で、画家の自邸が写真と文章で紹介されています。表紙は本展でも重要な作家であるアンドレ・ドランのアトリエです。
桑久保さんはドイツで買ったこの本を度々眺めているうちに、ひとつのキャンバスに一人の画家を題材とし、作品や身の回りのものが広がる空想のスタジオを描くことを思いつきます。
それを桑久保さんが好きなカレンダーの形式を用い、「12人のアーティストカレンダーのための絵」*として描こうと始まったのが「カレンダーシリーズ」です。
桑久保さんは毎年アトリエに気に入った画家のカレンダーを飾り、毎月替わる作品を1ヶ月じっくり眺めるそうです。
カレンダーは画集よりも作品に向き合う時間が長いのが魅力だと言います。

*桑久保徹連載1:A Calendar for Painters Without Time Sense

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桑久保徹 《パブロ・ピカソのスタジオ》 2017年 油彩、カンヴァス 181.8 x 227.3 cm
 ©Toru Kuwakubo, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

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桑久保徹 《パブロ・ピカソのスタジオ―1月》ドローイング 2017年 木炭、紙
 ©Toru Kuwakubo, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

「カレンダーシリーズ」の制作は、まず画家を選ぶところから始まります。
そしてその画家の印象に合う月を想定します。
続いて画集や文献、映像資料を調べたり、画家にまつわる地域の風景画像を集めたりして作品のイメージを組み立て、木炭でドローイングを描いてから油彩にとりかかります。
どの作品も、海辺がスタジオの舞台となります。桑久保さんが想像する画家のイメージに合わせて、様々な表情の海が描き出されます。
その海辺に画家の作品群やモチーフ、アトリエや住居にある日用品などが細かく描かれます。

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桑久保徹 《ポール・セザンヌのスタジオ》 2015年 油彩、カンヴァス 181.8 x 227.3 cm
 ©Toru Kuwakubo, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

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桑久保徹 《ポール・セザンヌのスタジオ―5月》ドローイング 2015年 木炭、ペン、紙
 ©Toru Kuwakubo, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

制作は非常に根気のいる作業です。
画家特有のタッチや色彩を追い求め、画家の人生を追体験するような部分があるため、画家が自分に憑依したと感じることもあるそうです。
また、制作中の時間がゆっくり進むような、止まったような感覚と、否応なく訪れる忙しない日常とのギャップによって、時間が歪むように感じると言います。
そこから時間について思考を巡らすようになった桑久保さんにとって、カレンダーはそれ自体が時間を内包する存在として認識されているのです。

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トークの後半は、桑久保さんと展覧会担当の片多学芸員と共に展示室を巡りました。
桑久保さんはそれぞれの画家が使用した油の種類や筆のタッチなど、画家ならではの視点で絵を分析し、片多学芸員は作品や作家を巡る時代背景などについて解説しました。

桑久保さんが特に熱を込めて語ったのがセザンヌです。
「セザンヌは初めて絵を『つくった』人なのではないか。画面上のどの要素が欠けても絵のバランスが成り立たない。認識が線となって表れているように思う。」
ルノワールについては、「自分と全く違う描き方なので似せて描くのはとても難しい。モネは視覚的なものを追い求めたのに対し、ルノワールはもっと精神的なものを描こうとしたのではないか。」と語りました。
ピカソも思い入れの強い画家の一人ということで、「新古典主義の時代のピカソが好き。人間を超越した神のような存在を作り出しているようで不遜な感じもする。怪物ピカソという感じ。」と独自の見かたを展開します。

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この日の桑久保さんは、自身の作品について話すよりも出品作家について語るときの方が伸び伸びと饒舌であるように感じられました。
画家であると同時に、絵が好きでたまらない大の美術ファンである桑久保さんの一面が垣間見えたように思います。
そのようなベースがあるからこそ、現在の桑久保さんの作風が確立されているのかもしれません。

今回は、現代のアーティストの視点から出品作品について語っていただくことで、新たな角度から作品に光を当てることができました。
本展には著名作家による名作が多数出品されていますが、まるでそれらの制作現場を目撃したかのように、描画方法や作家の頭の中を想像も交えて臨場感たっぷりに語る桑久保さんの話力で、作品がより生き生きと身近に感じられたように思います。

当館ではスライド画像でのご紹介にとどまりましたが、現在も制作が続いている桑久保さんの「カレンダーシリーズ」は、今後他館での展示が予定されています。
12点を一堂に見られる機会を心待ちにしたいと思います。

(市民のアトリエ担当)

「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展

web版『美術手帖』SERIES / 桑久保徹
桑久保さんご自身の軽妙な文章で「カレンダーシリーズ」が詳しく紹介されています。

[画家の話し―桑久保徹とみるオランジュリー美術館コレクション 実施 2019/11/23(土)15:30~17:30]