市民のアトリエでは、陶芸家の瀬戸毅己さんを講師にお迎えし、「抹茶茶碗創作 志野と黒織部にせまる」を開催しました。このワークショップは7月から9月に開催された「原三溪の美術 伝説の大コレクション」展にあわせて企画されました。
初回
原三溪は横浜の実業家として、また三溪園をつくった人物として有名ですが、多くの美術作品をコレクションし、茶人でもありました。今回は展覧会を担当した内山淳子学芸員の解説で、三溪が旧蔵した茶道具のうち、特に《志野茶碗 銘 梅が香》、《黒織部茶碗 銘 文覚》、《黒織部茶碗 銘 残雪》の三作品に注目した鑑賞からスタートしました。
鑑賞を深めた後は、早速制作開始です。
この日のうちに志野と黒織部の二つの茶碗を成形しなければいけないので気が抜けません。
講師の瀬戸さんのアドバイスを受けながら、和やかな雰囲気で制作が進みました。
2回目
粘土の水分が飛び、やや硬くなった状態で、この日は削りをおこないます。
まずは高台部分から削ります。
その後茶碗の外側、内側と削り進めて、全体のかたちを整えます。
削りすぎると穴が空いてしまい、削りが足りないと重い茶碗に仕上がるため、慎重に作業をおこないます。
次第にそれぞれの茶碗のかたちに個性が現れてきました。
成形が終わった茶碗はしっかり乾燥させ、後日素焼きをおこないました。
3回目
素焼きを終えた茶碗に施釉をおこないます。
まずは志野茶碗から。高台部分を片手で抑えて、もう一方の手で、柄杓を使い釉薬をかけていきます。
単純な作業に見えますが、均等にかけるのはとても難しいです。
黒織部茶碗の方は、黒色の釉薬を施した後、「窓」と呼ばれる釉薬のかかっていない部分に、鉄絵具で絵や模様を描きさらにその上に別の釉薬をのせました。
今回の粘土と釉薬は、本展出品作品のイメージに近づけるために瀬戸さんが試作を重ね厳選してくださったものを使用しています。
こうして窯詰め前の皆さんの作品が揃いました。
黒織部茶碗は横浜美術館の窯で焼成し、志野茶碗は瀬戸さんの窯で焼成します。
いつも陽気な瀬戸さんですが、皆さんの思いのこもった作品を焼成するとあり、窯焚き前は緊張した様子でした。
4回目
工程を重ねてきた作品がいよいよ焼き上がりました。
焼成にあたっては、瀬戸さんと市民のアトリエのスタッフが細心の注意を払い、火と温度の管理をしながら作業にあたりました。
参加者の皆さんは、焼き上がったご自身の作品に初対面。
志野茶碗も黒織部茶碗も、よい色に焼き上がりました。
陶芸は火の作用により表情が変わるため、全てが作者の意図通りに仕上がるとは限りません。
それが難しいところでもあり、魅力でもあります。
その醍醐味を今回の作品づくりで感じていただけたのではないでしょうか。
仕上げに高台のやすりがけをして、無事に作品が完成しました。
最後は、瀬戸さんの計らいでお抹茶をいただきました。
初めて使う自作の茶碗に笑顔がこぼれます。
この日のお茶は格別の味だったのではないでしょうか。
全4回のワークショップは、研究熱心な瀬戸さんのご指導と明るいお人柄で終始和やかな雰囲気に包まれました。
参加者からは「自分で制作したことによって、陶芸を見る目が変わった」という感想が多く聞かれました。
この体験をぜひ今後の鑑賞、制作に活かしていただければと思います。
そして自作の茶碗を永く愛用していただけますように。
(市民のアトリエ担当)
[抹茶茶碗創作 志野と黒織部にせまる 実施 2019/8/3・4・18・9/1 全4回]