「イサム・ノグチと長谷川三郎―変わるものと変わらざるもの」展学芸員ブログ 第2回 長谷川三郎作品の一部入れ替え完了

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「イサム・ノグチと長谷川三郎」展も開幕から1ヶ月半が過ぎ、だんだん春の気配が感じられる時節になりました。

2月14日に、長谷川三郎作品の一部入れ替えを行い、15日より新しく2点の作品がご覧いただけるようになりました。今回のブログでは、その2作品―《環境》と《狂詩曲 漁村にて》―をご紹介します。

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写真手前《環境》、最奥《狂詩曲 漁村にて》

1点目は、1953年に制作された《環境》です。この作品は、かまぼこ板を彫って作った版木によって作られた作品です。

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長谷川三郎《環境》1953年、紙本墨、木版、二曲屏風一隻、国立国際美術館蔵

長谷川は、1949年から54年頃まで神奈川県の辻堂に暮らしていました。土地柄、小田原のかまぼこを貰うことが多かったといわれる長谷川は、ある朝、自宅で顔を洗っていた時、目の前に数枚のかまぼこ板があることに気づきました。そして、ためらうことなくそれらを手に取り、子どもから借りた彫刻刀を使って板を彫り始めました。しばらくして、かまぼこ板から抽象的な図柄のある何種類かの版木が生まれ、長谷川はそれらに墨を塗って紙の上にスタンピングしながら、作品を制作しました(最初に制作した《桂》ではポスターカラーが使われています)。

この技法を使った作品は、他にもいくつか作られています。長谷川は、そのためにたくさんのかまぼこを購入したようです。ご親戚の中には、小さい頃辻堂の長谷川家に遊びに行くと、いつもかまぼこが出てきたと思いだされる方もいらっしゃったそうです。

それから、市民のアトリエのワークショップで、実際に板を彫って長谷川のようなスタンピングに挑戦したところ、ゴム版と違い、紙にしっかりと形を捺すことがとても難しく、長谷川がいかに苦心を重ねて技術をマスターしたかということに改めて気づかされました。おそらくは小田原のかまぼこ板による長谷川の大作を、ぜひ会場でご覧ください。

2点目は、1952年の作品《狂詩曲 漁村にて》です。この作品に見られるのは、いくつもの木目が転写された図柄です。顕微鏡で覗いたときのように、木目の細部がはっきりと浮かび上がたこの作品は、拓刷りという技法で制作されています。

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長谷川三郎《狂詩曲 漁村にて》1952年、紙本墨、拓刷、四曲屏風一隻、東京国立近代美術館蔵

拓刷りとは、凸凹のある石や木などに紙をのせ、その上から墨や鉛筆などで擦ると、素材の模様や表面の像が正確に写し取れるという手法です。紙をぬらして墨をのせる湿式と、紙をぬらさずに擦る乾式があり、長谷川の作品は湿式によるものと考えられています。

この作品で長谷川は、浜辺に打ち捨てられていた木造船を買い取り、辻堂の自宅の庭に置いて拓刷りを行いました。朽ちた船のそこかしこに紙をあてながら、さまざまな角度、墨の濃淡で木目をとっていく作業は、失敗の許されない緊張感に満ちたものであったと思います。

ところで、作品名にある「狂詩曲(ラプソディ)」という言葉についてですが、私はアメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィンによる『ラプソディ・イン・ブルー』を思い浮かべました。モチーフが自由奔放に重なり合いながらも緻密に構成されたこの作品からは、『ラプソディ・イン・ブルー』を聴いたときのような、リズミカルで雄大な世界観が感じとれます。

「イサム・ノグチと長谷川三郎」展は、3月24日(日)まで開催しています。これから暖かくなり、散歩するにはよい季節になりますので、ぜひ横浜散策を兼ねて横浜美術館までお越しください。

(大澤紗蓉子)