中学校教員との「横浜美術館コレクションを活用した授業づくり」研究会

教育プロジェクトでは、横浜市立中学校の美術科の先生方と一緒に、「横浜美術館コレクション」を使った授業づくりを2016年5月よりスタートしました。

今年度、主にご参加いただいているのは9名の先生です。研究会の目標は、作り上げた指導案を、横浜市内にある150校近くの中学校で使ってもらえるよう横浜美術館のウェブサイトで公開し、先生方の授業づくりの参考にしてもらうことです。

教育プロジェクトのスタッフも、中学校の先生方とこのように協働するのは初めてのこと。互いに力を合わせて、生徒たちにとって意義のある指導案を作り上げるべく、5月から模索の日々が始まりました。

t1.jpg5月の第一回研究会での作品選定の様子。全部で18件の候補作品から、4件の作品を選びだしました。

対象作品は、横浜美術館の所蔵作品の中から代表的なもの、かつ今年度のコレクション展で実際に出品される18件を候補に、4件を先生方に選んでいただきました。最終的に下記の3つのチームに分かれて、意見を交わしながら授業案を作り上げていきました。

1)下村観山チーム 下村観山作≪小倉山≫(1909年、絹本着色・六曲屏風一双)

2)片岡球子チーム 片岡球子作≪富士≫(1980年、紙本着色・額)

3)彫刻チーム  

  イサム・ノグチ作≪真夜中の太陽≫(1989年、赤と黒のスウェーデン産花崗岩)

  コンスタンティン・ブランクーシ作≪空間の鳥≫(1926年[鋳造1982年]、ブロンズ・石灰岩)

そして2016年11月26日(土)。検討を重ねてきた指導案の発表会を開催しました。創意工夫を凝らした4つの案が提示されました。

t2.jpg発表会の冒頭。右手のテーブル席に座っているのが研究会に参加してくださっている先生方。後方には横浜市教育委員会や他館の学芸員などのオブザーバーの方々が、発表の様子を見守っています。

 下村観山チームからは、日本画の屏風の形態に着目した指導案「屏風の世界へ入ってみれば・・・」と、日本画の技法に焦点を当てた指導案「『たらしこみ』って何?」の2案があがってきました。

【下村観山チーム指導案1】 「屏風の世界へ入ってみれば・・・」

屏風の形態に着目して日本の美術文化に触れるとともに、≪小倉山≫の空間表現や、作品の置き方や光の当て方によって見え方が変化するのを知ることで、自分なりの作品鑑賞の方法を導く案です。

t3-1.JPG t3-2.JPG左:手のひらサイズの≪小倉山≫の模型と書画カメラを使い、自分なりの屏風の置き方や光の当て方を発表中。 右:質疑応答の様子。
 

【下村観山チーム指導案2】 「『たらしこみ』って何?」

日本画の伝統的な技法「たらしこみ」を知り、実際に体験してみることで、作品の細部の表現を鑑賞し、また自分の制作のヒントにもつなげていくことを目指した内容です。

t4-1.jpg t4-2.jpg左:≪小倉山≫に描かれた木の幹に用いられている、たらしこみ技法の拡大図を投影し、技法について説明しています。 右:指導案に沿って、参加教員がたらしこみを体験しているところ。実際に手を動かす技法体験は楽しく、皆さん賑やかに取り組まれていました。

 

【片岡球子チームの指導案】 「私の心の富士 ~人それぞれが感じている『富士』を味わおう~」

生徒たちが心に抱く富士のイメージを確認するところから始まり、片岡球子の大胆な造形と色彩表現、そして作家自身が富士という題材にどのように挑んできたのかを学ぶ内容です。

t5-2.jpg t5-1.jpg左:各人が思い浮かべる富士の形を描き、それを見比べているところ(画面に投影中)。 右:作品画像を、白黒からカラーに転じることで、色彩表現の特徴を説明しています。

 

【彫刻チームの指導案】 「彫刻の居場所 ~『彫刻作品』と『空間』の響き合いを味わおう~」

「横浜美術館の彫刻作品が、自分たちの学校に来ることになったら、作品が一番輝いて見えるのはどんな場所だろう?」。そんな問いかけから始まり、彫刻とそれが置かれる空間の関係を生徒たちに考えさせる案です。

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左上:先生の手元に見えるのは、イサム・ノグチ作≪真夜中の太陽≫の図版を、プラ板にのりで貼ったもの。 右上:今回の発表を前に、自分の学校でプレ授業をしてくれた先生もいました。生徒たちがプラ板に貼った図版とデジタルカメラを片手に、ここぞという場所で写真を撮っている様子が、モニターに映し出されています。 左下:彫刻のサイズを体感できるように、原寸大のシルエットを黒い紙で表したものを準備しました。

 

そして、各指導案の発表のあとは質疑応答や意見交換が行われました。

次回2017年1月21日(土)には、他の先生方が今回発表された指導案を自分の授業に取り入れようとした時に、追加で必要となってくる情報や改善案について最終協議をする予定です。ブラッシュアップされた指導案は、2017年2月頃に、横浜美術館のウェブサイトに掲載し、市内の中学校教員の方に、お使いいただけるようにする予定です。