NAP「荒木悠展 複製神殿」展覧会コラム vol.3

「荒木悠展 複製神殿」、担当学芸員の大澤です。展覧会コラムvol.3です。

先日、今回の展覧会にあわせ、荒木さんのインタビュー映像を収録しました。インタビュー制作を担うのは、2003年から展覧会の告知映像やインタビュー制作などで連携を行う、城西国際大学メディア学部の学生さんたちです。

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インタビュー当日は、あいにくの曇り空。自然光の入る撮影場所だったので、刻一刻と変化する天気が心配でしたが、学生さんたちの頑張りと技術力に支えられ、素敵なインタビューを撮影することができました。このコラムを書いているときは編集の真最中。インタビューは、2月下旬より荒木展ウェブサイトで公開します。会期中には、会場でもご覧いただけます。荒木さんのこれまでの活動と新作についてお話し頂きましたので、完成の暁にはぜひご覧ください。

ところで、このインタビューのなかで、荒木さんはご自身の制作について、次のように述べていました。

『作品を作るうえで唯一設定しているのは、「知らない場所に行く」ということです。ここから、制作を始めています。』

この言葉は、荒木さんがこれまで制作してきた作品の多くに共通する特徴だったので、とても惹きつけられました。

2007年、ミズーリ州セントルイス・ワシントン大学を卒業した荒木さんは、8年ぶりに日本に帰国します。帰国後も勉強に励み、翌年には東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻に入学。本格的に映像制作に取り組みはじめた荒木さんは、在学中、「未知の領域」を求めて、《Deep Search》(2009)という作品を制作します。これは、誰もが見たくて、でも肉眼で見ることのできない場所、自分の体内を撮影する映像作品でした。

NAP_Araki_vol.3_2.jpg《Deep Search》2009、ビデオ

その後、大学院修了を控えた荒木さんは、大学主催の交流プロジェクトに参加し、フランス、ナント市で2週間の滞在制作を行ないます。このとき撮影された作品《Baguette Walk》(2010)は、バゲットを食べながらナント市内を散策する荒木さんの様子が、バゲットの先端に付けられたスパイカメラによって映しだされます。見知らぬ土地でのちょっとした遊び心から生まれた映像でしょうが、ここからは、カメラを通して「知らない場所」で制作する自身を見つめようとする姿勢や、何かを模索するような様子などを伺い知ることができます。

NAP_Araki_vol.3_3.jpg《Baguette Walk》2010、ビデオ

こうした初期の制作を経て、荒木さんは「カメラと身体」「無関係のもの(見知らぬ場所と自分など)を繋ぎ合わせること」といった、その後の作品に繋がるヒントやテーマを見出して行きます。大学院修了後も、「未知の領域」を求めて、ベトナムやスペインなど、様々な都市に滞在。それぞれの地域で出会う見知らぬ出来事、見知らぬ人、見知らぬ歴史や慣習など、そういったものをひとつひとつ調べ、撮影を繰り返して行きました。ときにはドキュメンタリー映画監督のようにカメラによって見つけだし、ときにはスパイのようにこっそり盗み撮るなど、撮影方法はそのときどきの状況にあわせ、直観的に選ばれていったそうです。こうした撮影現場でのインスピレーションと、文献や対話から得た情報をもとにした考察が、荒木さんの作品の光景を作りだしているようです。

次回はそろそろ、今回の新作制作の様子を、レポートしたいと思います。

(大澤紗蓉子)