米田知子:震災から10年 Yoneda Tomoko : A Decade After

米田知子[よねだ・ともこ]は1965年兵庫県明石に生まれ、シカゴとロンドンで写真と美術を学んだ後、現在ロンドンで活動を続けている作家です。

展示作品は、2005年2-3月に芦屋市立美術博物館で開催された個展「震災から10年」の出品作を、同年10月に「横浜トリエンナーレ2005」に展示するため再びプリントしたものです。2006年度、作家より横浜美術館に寄贈されました。白黒写真は震災直後に撮影したもので、カラー写真は10年後の神戸を新たに撮影したものです。米田は、当時遺体仮安置所として使われた学校の教室や、避難所跡地など、ほうっておけば人びとの記憶から消え去ってしまう場所を、震災をきっかけに活動を始めたボランティア・グループ「とまと」の協力を得て、掘り起こしました。

カラーと白黒の写真によって、現在と過去をくっきりと対比させる手法は、「記憶の風化」にたいする抵抗の試みといえます。震災の傷あとが目立たなくなった神戸のいまを写したカラー写真はどれも、端正で静かな印象を与えるほかは一見なんの変哲もないイメージですが、写真の説明文をあわせて読むことで、私たちは震災の記憶に対峙させられます。

静かで美しい風景写真と、その場所で起こった大きな災厄を伝えることばとのあいだには、いちじるしいギャップがあります。写真とことばのギャップを利用して、歴史との対面をうながす手法は、米田の作品の特徴をよく表します。この連作でも、私たちは、米田の写真とその説明とを交互に見比べることで、何ごともなく過ぎていくかのような日常の風景が、実は大震災のおびただしい死者の犠牲を経た結果、成り立っていることに思いいたるのです。

米田知子(1965年生まれ)
《空地II(市内最大の被害を受けた地域)》
平成16年(平成17年のプリント)
タイプCプリント
米田知子氏寄贈
YONEDA Tomoko (born in 1965)
VACANT SPACE II―located in the most damaged area and untouched since the earthquake
2004 (2005 Print)
type C print
gift from Ms. Yoneda Tomoko

米田知子《空地II(市内最大の被害を受けた地域)》