展示室2 / オブジェと絵画

メレット・オッペンハイム(1913-1985)はベルリンの生まれ。1932年から37年にかけてパリに滞在し、シュルレアリスムの展覧会に参加しました。1936年、彼女はひとそろいのカップと皿、スプーンを毛皮で覆ったオブジェ≪毛皮に包まれた朝食≫を発表し、注目を集めました。横浜美術館の≪栗鼠(りす)≫は、冷えたビールを飲むときの口元の感触や喉ごしと、毛皮の手触りや肌触りを同時に思い出させようとする装置です。既知の品物を組み合わせて変容させることで、見る人の触覚をも刺激し、官能の記憶を呼び覚ます、シュルレアリスムのオブジェならではのメカニズムがここに働いています。食器を使うことで口腔という粘膜の感覚を引き入れたところに、オッペンハイムの独創性があります。

シュルレアリスムの美術家マン・レイ(1890-1976)の作品≪贈物≫は、鉄のアイロンが凶器に変容しているようです。彼は、ヌードで版画インクと戯れるオッペンハイムをモデルにした写真作品をのこしています。

古い挿絵を切り貼りしたマックス・エルンスト(1891-1976)のコラージュ≪鏡の中の天使≫が暗示するように、シュルレアリスムのオブジェは、あなたの気づかない心を映す鏡です。20世紀初頭に始まった、既製の品物やイメージを取り入れる制作法は、今日まで欧米や日本の作家たちに受け継がれ、時代を映す鏡にもなっています。

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