展示室1 /昭和の日本画

昭和の時代は、歴史の大きな変化に見舞われました。

大正12年(1923)9月1日、関東大震災が発生。幕末期の余情、明治のたたずまいを残す東京を壊滅させ、モダンな新しい東京を生みだす契機となりました。地下鉄の開通、ラジオの普及と歌謡曲の流行、モボ・モガの闊歩(かっぽ)、銀座に軒をあらそうカフェーの現出など、街の表情は一変しました。従来の日本画家の制作にも澄明感(ちょうめいかん)と動感などが増幅され、くすみがちであった大正期の傾向を脱しています。

荒井寛方(あらい・かんぽう)の≪どんど焼き≫は、1月15日に正月飾りなどを焼いて無病息災(むびょうそくさい)を祈る行事を描いたものです。燃えたつ火炎をたくみに様式化しており、子どもたちの印相めいた手つきなどに、不動明王(ふどうみょうおう)とその脇侍(わきじ)からなる三尊像(さんぞんぞう)が暗示されているようです。仏画を本領とした寛方らしい意欲作です。山村耕花(やまむら・こうか)の洋装の≪少女≫は同時代性を意識した主題ですが、ベルリン日本美術展(1931年)出品作≪ウンスン哥留多(かるた)≫はキリスト教伝来の頃のエキゾチックな風俗を、余白を活かした明るい画面に描き出しています。

太平洋戦争の終結と戦後の復興、価値観の転倒。こうした変化は、西洋と日本、伝統とモダン、精神主義と物質主義といった相克を抱える日本画家たちの美意識にも様々に反映されています。小倉遊亀(おぐら・ゆき)の≪良夜≫は、深みのある空間にデフォルメした裸婦を上下を対称的に描き、生命感にあふれる清新な画面を示しています。

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