展示室1 /今日の日本画

美術の表現や媒体(伝達手段)がつぎつぎと開拓されていく戦後の動きのなかで、長い歴史をもつ日本画の世界にも、新しいあり方を求める作家たちが登場します。彼らの多くは、伝統をしっかりと継承し、それを豊かな土壌として新たな芽をはぐくんでいきました。

守屋多々志(もりや・ただし)は、神話や歴史の逸話などに題をとった「歴史画」を得意としました。しかしその画面は決して古風なものにとどまらず、今を生きる私たちの感覚に響く新鮮さに満ちています。『古事記』の伊邪那岐(イザナギ)・伊邪那美(イザナミ)をあつかった《愛縛清浄(あいばくしょうじょう)》は、ふたりの神によって天地が創造される宇宙的なイメージの広がりを、ダイナミックに伝える作品です。

きらめく金銀の箔や、天然鉱物から生みだされた鮮やかな顔料など、画材の多彩さや美しさは日本画に特有の魅力のひとつです。岩橋英遠(いわはし・えいえん)は、科学技術によってさらに色味を増した新たな絵具を、積極的に取り入れています。故郷北海道の自然を写す彼の風景画の輝きは、日本画材の可能性を最大限に引き出そうとする制作態度によっているといえるでしょう。

眠る人のさまざまな姿を描いた中島千波(なかじま・ちなみ)の《眠*'91-3-T》。あっさりとした線描表現は、平安時代にはじまる白描画を思い起こさせます。伝統につちかわれた洒脱(しゃだつ)な線が、人体を組み合わせてまとめあげる画家の構成力を、いっそう際立ったものとしています。


中島千波
《眠*'91-3-T》
平成3年
NAKAJIMA Chinami
Sleep * '91-3-T
1991

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