ポップ・アートは、1950年代後半から60年代にイギリスとアメリカに現れた動向です。商品やマスメディアにイメージソースを求めた作品は、「芸術」大衆文化の境界を無効にし、ときには社会のシステムをも批判的に示しました。
「キャンベル・スープ」のシリーズは商店の陳列棚を連想させますが、陰影のない巨大な缶の絵に実物のリアリティーは感じられません。アンディ・ウォーホルは、見慣れた商品の外貌を「芸術」の形式に移しかえることによって、ラベルの反復がもたらす宣伝効果と、イメージ戦略によって支えられた消費社会の構造を暴露しているのです。
こういう企図にとって、版画は恰好の媒体となりました。というのも、それは「芸術」の枠内にありながら、「複製」「量産」「反復」など大衆文化の特質をもそなえているからです。ロイ・リクテンスタインは、アメリカン・コミックの一コマをひきのばし、印刷に特徴的な網点を強調する作風で知られています。安手の印刷物が絵画になり、それがふたたび版画作品に変じたとき、サブカルチャーと「芸術」の区分はさらに不確かなものとなっていきます。
ポップ・アートにおける版画のありようは、表現のコンセプトと技法がきわめて幸福に結びついた事例といえるでしょう。 |