1920年代から40年代にかけての日本は、関東大震災や太平洋戦争などに直面する一方で、自由と個性が強く求められた時期でもありました。画家たちは近代社会をまっすぐに、ときには批判的に見つめながら、新しい時代の表現を模索しました。
 関東大震災による破壊は、東京の都市化に拍車をかけました。稲垣知雄の版画には、廃墟と化した街と、工業生産に支えられる都市風景の双方が描かれています。また、日本初の抽象版画と目される恩地孝四郎の《抒情5種 あかるい時》をはじめ、この頃、版画は「芸術」としての地位を確立していきました。《未完成交響楽》の作者・福沢一郎は、1931年の展覧会でシュルレアリスム風の滞欧作を発表し、画壇に衝撃を与えました。北脇昇や小川原(おがわら)(しゅう)の、リアルさと幻想性が交錯する不思議な作品も、日本におけるシュルレアリスムの広がりを示すものです。瑛九(えいきゅう)、恩地の「フォトグラム」は、写真表現での実験に数えられます。
 有島生馬、清水(しみず)登之(とし)、野田英夫のように、長く海外に生活する作家も現れました。日系移民の子としてカリフォルニアに生まれた野田は、アメリカの大恐慌と不況に向き合わざるをえませんでした。彼特有のノスタルジックな画面の背後に、そうした現実の社会問題があったことを忘れてはならないでしょう。



野田英夫
《追憶》 昭和10年
NODA Hideo
Reminiscence
1935

・稲垣知雄 《廃墟B》 1924(大正13)年 木版 
・稲垣知雄 《熱風炉》 1926(昭和元)年 木版 
・瑛九 『フォート・デッサン作品集 眠りの理由』より 1936(昭和11)年 ゼラチン・シルバー・プリント 
・瑛九 『フォート・デッサン作品集 眠りの理由』より 1936(昭和11)年 ゼラチン・シルバー・プリント 
・小川原脩 《砂漠の花》 1937(昭和12)年 油彩、カンヴァス 小川原脩氏寄贈
・小川原脩 《植物譜》 1937(昭和12)年 油彩、カンヴァス 小川原脩氏寄贈
・小川原脩 《双生児対話》 1940(昭和15)年 油彩、カンヴァス 
・恩地孝四郎 《抒情5種 あかるい時》 公刊『月映』V-5より 1915(大正4)年(1989年刷り) 多色木版
・恩地孝四郎 《ダイビング》 1936(昭和11)年 多色木版 北岡文雄氏寄贈
・恩地孝四郎 《フォトグラム》 1930-40年代 ゼラチン・シルバー・プリント 
・恩地孝四郎 《フォトグラム》 1930-40年代 ゼラチン・シルバー・プリント 
・川口軌外 《群像》 1941(昭和16)年 油彩、カンヴァス 
・川西英 《サーカスの人々》 1926-35年頃(昭和初期) 多色木版 
・北脇昇 《眠られぬ夜のために(習作)》 1937(昭和12)年 油彩、カンヴァス 
・北脇昇 《自然と人生》 1944(昭和19)年 油彩、カンヴァス 
・清水登之 《ヨコハマ・ナイト》 1921(大正10)年 油彩、カンヴァス 
・野田英夫 《追憶》 1935(昭和10)年 油彩、カンヴァス 
・野田英夫 《風景》 1937(昭和12)年 テンペラ、カンヴァス 
・長谷川潔 《レダ》 1922(大正11)年 エッチング、ドライポイント 
・長谷川潔 《ヴァロリス風景》 1922(大正11)年 エッチング、ドライポイント 
・濱谷浩 《手、東京》 1932(昭和7)年(1991年プリント) ゼラチン・シルバー・プリント 
・濱谷浩 《自分の横顔のフォトグラム、東京》 1935(昭和10)年(1991年プリント) ゼラチン・シルバー・プリント 
・福沢一郎 《未完成交響楽》 1930(昭和5)年 油彩、カンヴァス 
・山村耕花 《ニューカルトン(上海)》 1924(大正13)年 多色木版 



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