特集展示 荒木経惟

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 アラーキーの愛称で知られる荒木経惟(あらき・のぶよし、1940年生まれ)は、現代日本を代表する写真家の一人です。東京・三ノ輪で下駄屋を営む父親がアマチュアカメラマンであった影響から写真の道を志した荒木は、千葉大学を卒業後、広告代理店電通で宣伝用カメラマンを勤めました。1964年、団地に遊ぶ子どもの、生き生きとした笑顔あふれる姿をとらえた写真集『さっちん』にて第1回太陽賞を受賞、のちにフリーの写真家となりました。妻陽子(ようこ)との新婚旅行を収めた『センチメンタルな旅』(1971年)など、私生活と写真を密接に結びつけた「私写真」で写真の新たな領域を拡げたほか、女体、花、風景などを被写体に、独自の性愛観、死生観を示す写真を撮り続けています。その旺盛な制作活動は、丸縁メガネをトレードマークとする自身のスタイルと共に常に注目を集めています。

 ≪横浜美人100人≫は、2008年開催の当館企画展「茂木健一郎・はな・角田光代・荒木経惟 4人が創る<わたしの美術館>」の際、一般公募により選ばれた女性100人を、会期中、当館グランドギャラリーを会場に荒木が撮り下ろした作品です。<複写美人シリーズ>も同展の発表作です。今でいうグラビア・アイドルとも呼べる、明治期刊行の雑誌口絵の女性像を採りあげ、その表情の豊かさをクローズアップで見事に引き出して います。その着眼点は荒木ならではであり、横浜で撮影された現代に生きる女性たちと、明治期の多色木版画の女性像が、時代を超えた女性像対決として楽しめるところも荒木の心憎い仕掛けです。

荒木経惟≪複写美人:武内桂舟「江戸芸者」より≫

荒木経惟 ≪複写美人:武内桂舟「江戸芸者」より≫
2008年(平成20)/銀色素漂白方式印画
106.0×87.0cm/荒木経惟氏寄贈

武内桂舟 ≪江戸芸者(『文芸倶楽部』<br />
第10巻第1号口絵、博文館)≫

武内桂舟 ≪江戸芸者(『文芸倶楽部』
第10巻第1号口絵、博文館)≫
1904年(明治37)発行
多色木版/30.4×22.4cm

荒木 経惟 ≪横浜美人100人≫

荒木 経惟 ≪横浜美人100人≫
2008年(平成20)
ゼラチン・シルバー・プリント
90.0×60.0cm
荒木経惟氏寄贈
Photo © ARAI Takashi