横浜美術館
日本画にみる光の表現
今村紫紅
《月明り》

今村紫紅
《月明り》
1914年頃
絹本着色、軸
125.5×51.2cm

 西洋美術では、光と影のコントラストによって、描かれる対象の立体感や形態の把握、画面構成上の劇的な効果を表現する「明暗法」が生み出されました。一方、日本画では、光による明暗よりもまず、輪郭と色とで対象をとらえ、線描が重視されてきました。そのため日本画においては、画材が持つ特徴や技法を効果的に用い、光と影のコントラストによる明暗表現とは異なった光の扱いが見られます。

 たとえば、川合玉堂の《奔流》は、勢いある水の流れが墨だけで描かれています。あえて金地に描くことで、作品全体を華やかにするとともに、水流が光を受けて輝くかのような印象を与えています。一方、仏画における光背は、仏像から発せられる光を表す様式で、神々しさの表現です。山中雪人の《釈迦三尊》では画面全体が柔らかい光を帯び、その中に釈迦仏と脇侍を端正な線描で描き出して気品をたたえています。また、雪月花は、古くから歌に詠まれ、自然を愛でる日本人の美意識を代表する景物で、満月即ち名月は好まれた画題の一つです。今村紫紅の《月明り》における竹林や、松林桂月の《葡萄図》における葡萄の房などは、月の光が差して生じるはずの明暗では捉えられていませんが、澄み渡る光を放つ月の冴えは見る者に伝わります。石渡江逸の木版画において月の光による明暗が意識されているのと見比べてください。

川合玉堂《奔流》

川合玉堂
《奔流》
1931年頃
絹本墨画、6曲1双
各175.0×374.0cm

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