日本の現代写真
展示風景

展示風景

 戦前からの「ドキュメンタリー写真」の流れを受けて出発した戦後日本の写真芸術は、次第に「記録」から「表現」へと、メディアとしての立ち位置を大きく変えていきました。そして70年代後半以降、その表現はポストモダニズムの世界的な潮流のなかで多様化の一途をたどります。今回の展示では、1980年前後から現在に至るまでのさまざまな写真作品の中から、当館の所蔵する12作家、約60点を紹介します。
 在日韓国人の郭徳俊は、70年代後半から、現役のアメリカ大統領の顔と自分の顔とを上下に継ぎ合わせたユニークな連作を展開しています。また森村泰昌(もりむら・やすまさ)は、銀幕の女優など、歴史上の典型的イメージに自ら扮した写真作品などによって脚光を浴びました。自身の姿を「社会」や「歴史」という文脈の中に取り込んで、個と世界との関係を探ろうとする彼らの制作は、セルフポートレイトという形式に新しい可能性をもたらしています。
 人物を被写体とした写真表現としては、例えば高木由利子(たかぎ・ゆりこ)や服部冬樹(はっとり・ふゆき)らが伝統的な芸術写真の形式をふまえた耽美(たんび)的なヌード写真を制作する一方、やなぎみわは、案内嬢という職種をモティーフに、彼女たちに付与された一種の記号性やセクシュアリティを問題にした作品を発表しています。
 風景写真の領域においても、従来とは異なる視点で「場」と対峙する写真家が次々と現れました。松江泰治(まつえ・たいじ)は世界各地の砂漠や森、岩場を地勢学的な視点でカメラに収めます。写し出された光景には、それまでの風景写真が固執してきた、「場」を特定するための象徴的モティーフがそぎ落とされています。そのような風景への新しい視座は、北海道や沖縄の雑木や草むらにレンズを向ける仙北慎次(せんぼく・しんじ)や、都市の中の空虚を写し取る磯田智子(いそだ・ともこ)の写真にも通底しているでしょう。