夏から秋へ 日本美術院の画家たちを中心に
展示風景

展示風景

 横浜美術館の日本画部門では、生糸貿易で財を成した原三溪[はら・さんけい]の庇護のもと、日本近代美術の発展に寄与した作家の作品を主に収集してきました。ここでは、日本美術院の画家たちの、季節にちなんだ作品を中心にご紹介します。
 小林古径の《菓子》には、かりん、りんごなど季節の恵みが瑞々[みずみず]しく描かれています。古径は1935年(昭和10)頃から静物画を数多く描くようになりました。画中の容器などは、ほとんどが画家の愛用品でした。《菓子》の淡いブルーの敷物も古径邸客間の机上にあったものです。細かな刺繍[ししゅう]や縁飾りの描写から、じっくりと腰を据えた観察ぶりがうかがえます。大和絵風の濃彩が果物の質感を色の対比の中に際立たせています。また、それらが巧みに配置されることで奥行きがうまれ、装飾性と写実性の調和をつくり出しています。
 今村紫紅の《伊達政宗》は、1910年(明治43)の第12回紅児会に出品されました。「独眼竜」の異名[いみょう]で知られる伊達政宗[だて・まさむね]は、キリスト教にも熱心であったといわれています。この作品は、政宗が豊臣秀吉から一揆煽動の疑いをかけられ、身の潔白を主張したという伝承に取材しています。政宗の背後にそびえる太い柱と梁[はり]は、よく見ると十字架の一部であることが分かります。ほぼ正面から描かれた政宗像に対して、十字架は遠近法を用いて斜め下から見上げるように表されており、像主のゆるぎない後ろ盾となっています。日本の伝統的な肖像形式に新しい演出を加えている点に、歴史画の変革を目指す画家の創意を見ることができます。また、紫紅は風景画においても新たな境地を切り開きました。今回は《近江八景(小下絵)》をご覧いただきます。
 下村観山の《闍維》[じゃい]は1898年(明治31)の日本美術院第一回展に出品され、最高賞を受賞した作品です。「闍維」とは僧を荼毘[だび](火葬)に付すこと。ここでは釈迦の遺体を納めた金の棺を、菩薩[ぼさつ]や釈迦の弟子たちが見守っています。画面中央、柄のついた香炉を掲げているのは十大弟子の一人迦葉[かしょう]、画面右端から2人目の僧は観山の自画像であるといわれています。それまでの涅槃図[ねはんず](釈迦の入滅の図)のような俯瞰[ふかん]した構図とは異なり、この絵は弟子たちの目線の高さから描かれており、臨場感あふれる表現に成功しています。

  • 展示替えのお知らせ
  • 本セクションの以下の作品について展示替えをおこないます。
    7月2日から9月4日まで展示 山村耕花《ひまわり》、中島清之《雷神》、堅山南風《魚楽図》
    9月18日から2011年月1月10日まで展示 下村観山《小倉山》、岡本 彌壽子《秋雨》