瀧口修造とアントニ・タピエスによる詩画集『物質のまなざし』

 ここでは、詩人で美術批評家でもある瀧口修造[たきぐち・しゅうぞう](1903-1979)とスペインの美術作家アントニ・タピエス(1923年生まれ)の共同制作により生まれた詩画集『物質のまなざし』を紹介します。
 瀧口は、鋭い洞察力と鑑識眼により美術評論家として活躍し、とりわけシュルレアリスムを日本に紹介した第一人者として知られています。また、美術、音楽、舞踊といったさまざまな分野で活躍する芸術家と親交を結び、自身もシュルレアリストとして詩作をはじめとした創作活動をしました。1967年(昭和42)に『瀧口修造の詩的実験1927~1937』を出版したほか、敬愛する美術家と共同で詩画集を発表し、言語による新たな表現を模索しました。 タピエスは、スペインの中でも独自の文化と言語を守るカタルーニャ地方で生まれ育ち、シュルレアリスムの代表的作家である同郷のダリやミロから影響を受ける一方で、日本の道教思想にも傾倒しました。やがて、ぼろ布や廃材といった素材のもつ風合に魅せられて、故郷の肥沃な大地に育まれた生命感あふれる表現を確立しました。
 瀧口は、1976年(昭和51)に開催された日本における初のタピエスの回顧展図録に、「アントニ タピエスと/に」という詩を寄せて、その造形を評価しています。1975年(昭和50)に出版された『物質のまなざし』も、瀧口のタピエスに対する共感のもとに構想されました。この本では、瀧口により選ばれたカタルーニャ産手漉き包装紙が表装から本文に使用されており、ページをめくるごとに、瀧口による詩とタピエスの版画が調和する場が繰り広げられます。それは、瀧口が晩年にいたるまで取り組み続けた、詩的実験のひとつの到達点を示しています。
 また、瀧口とかかわりの深いシュルレアリスムの作家たちによる絵画、版画、オブジェおよび写真をあわせて展示します。

 瀧口修造は、シュルレアリスムに関する日本語による最初期の文献にあたる、アンドレ・ブルトンの著作の訳書『超現実主義と絵画』を1930年(昭和5)に上梓しました。また、1939年(昭和14)に『ダリ』、1940年(昭和15)には世界で最初のジョアン・ミロの単行書となった『ミロ』を出版するなどシュルレアリスムとかかわりのある作家たちの動向にいち早く着目し、日本に紹介しました。特に、ミロとは1970年(昭和45)と1978年(昭和53)に、2冊の詩画集を共同制作し、晩年にいたるまで親密な交流をしました。また、福沢一郎[ふくざわ・いちろう]も瀧口の思想に共鳴して活動し、日本におけるシュルレアリスムの画家として知られています。

「詩画集『物質のまなざし』の展示風景」
詩画集『物質のまなざし』の展示風景
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