「年々歳々花相似たり」—毎年変わらず咲く花々の美しさを見て、うつりゆく人の世の無常をはかなんだこの詩句は、『唐詩選』を通して日本で親しまれ、長らく愛誦されてきました。
このように、季節や時の移り変わりを、ときに人生と重ねて受けとめる私たちの鋭敏な感性は、豊かな自然に恵まれた生活の中で育まれました。そして、各地の風土に触発された多様な風景表現や、暮しの中の四季風物を描いた絵画が生み出されました。
《胡瓜》
昭和7年 紙本墨画淡彩、6曲1隻
YAMAMURA Koka (1885-1942)
Cucumber Vine 1932
India ink and slight color on paper, six-fold screen
日本人にとって、季節をあらわすこととは、季節を「切り取る」のではなく、春から夏、夏から秋、秋から冬、そして冬から春の季節の推移を感じさせ、鑑賞する人のイメージの広がりにゆだねることであるといえるでしょう。では、緑と陽光、そして湿潤な大気が万物をきらめかせる、春から夏に向かう季節は、どのように表現されてきたのでしょうか。ここでは、伝統的な主題を近代にふさわしい新鮮な色彩と構図で描いた日本画や、江戸の浮世絵から近代版画への移行を体現した版画家たちの作品を紹介します。
《風俗三十二相 すずしさう 明治五六年以来 芸妓の風俗》
明治21年 多色木版(大判錦絵) 加藤栄一氏寄贈
UTAGAWA (TSUKIOKA) Yoshitoshi (1839-1892)
Looks Cool, from the Series of "Thirty-two Aspects of Customs and Manners" 1888
color woodblock print on paper gift from Mr. Kato Eiichi
抽象画を思わせる大胆な構成で、光を浴びる竹林を描いた中島清之[なかじま・きよし]の《緑扇》は、その根元の、水を含んだかぐわしい土壌の匂いまでも想起させます。また、歌川(月岡)芳年[うたがわ(つきおか)・よしとし]や橋口五葉[はしぐち・ごよう]による美人画は、湿った風が夏衣の袖を潜る肌触りをも感じさせます。
日本絵具の研究を長年続け、彩色画を本領とした山村耕花[やまむら・こうか]は、《胡瓜》では、生命力あふれる夏の胡瓜畑をあえて墨画淡彩で描いています。画面の外へと広がる垣根の配置と背景の余白、墨の複雑な濃淡、効果的に用いられた花の金泥が、盛夏の主題を涼やかに見せています。