横浜美術館コレクション展 2015年度第2期

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濱谷浩《敗戦の日の太陽、新潟》(部分)1945年(1991年プリント)

展覧会概要

戦後70年記念特別展示 戦争と美術
岡倉天心と日本美術院の作家たち
ポール・ジャクレーと新版画

会期中に戦後70年の終戦記念日を迎える横浜美術館コレクション展2015年度第2期では、戦争と美術について考えます。  

第一次・第二次大戦間のヨーロッパでは、不安定な社会情勢を背景にして、アヴァンギャルド芸術運動が花開きました。大正期に新興美術運動が興隆した日本でも、昭和に入るとシュルレアリスムをはじめとする新しい表現に触発された画家たちによって、独自の前衛主義が形作られていきます。しかし、それら日本の前衛芸術運動はやがて国家からの弾圧の対象となり、戦争の勃発に伴う翼賛体制下、途絶しました。終戦からしばらくして、社会の復興活動とともに創作を再開する画家たち。記憶に刻まれた生々しい戦争の傷跡、ゼロから再起して新しい表現を模索しようとする決意・・・。芸術家たちは、戦争という重い経験をいやおうなしに背負い、直接的にせよ間接的にせよ、その影響を作品に投影し続けてきたと言っていいでしょう。 この特別展示では、当館が所蔵する20世紀美術を通して、戦争の前後を生きたさまざまな分野の美術家たちの創作を紹介するとともに、ヨーロッパ、そしてとりわけ日本における美術と戦争との関わりについて、写真や雑誌・書籍等の資料を交えて振り返ります。  

一方、本展と同時期に企画展「蔡國強展:帰去来」が開催されますが、出品作家の蔡國強(ツァイ・グオチャン)が深い関心を寄せている近代日本画、なかでも当館のコレクションの特徴となっている、岡倉天心に師事した日本画家、横山大観、下村観山、今村紫紅(いまむら・しこう)、安田靫彦(やすだ・ゆきひこ)などの作品を中心にご覧いただきます。  

また、パリ生まれの「浮世絵師」ポール・ジャクレー(1896-1960)をご紹介します。衰退していた浮世絵の復興と近代化を目指した「新版画」の運動において、特異な位置を占めるジャクレー作品188点のコレクションから代表的作品と、橋口五葉(はしぐち・ごよう)や伊東深水(いとう・しんすい)ら「新版画」の作品を展示します。

みどころ

  1. 両大戦間から戦後に至る時期の絵画、版画、彫刻、当時の報道写真に加え、当館美術情報センターが所蔵する書籍や雑誌類を交え豊富な作品・資料を一堂に展示。戦後70年を経た現在の視点から、日本における戦争と美術の関わりを多角的に紹介。

  2. 当館特任研究員の猿渡紀代子が、フランス政府よりポール・ジャクレーの研究と、日仏の文化交流に貢献した実績が評価され芸術文化勲章を受章した功績を記念し、ジャクレー作品188点のコレクションから代表作品を選りすぐり展示。また、ジャクレーの養女であり、多くのジャクレー作品を当館にご寄贈くださった、稲垣ジャクレー・テレーズ氏を招いたトークセッションを開催。

■コレクション展 2015年度第2期 出品リスト [809KB]

■コレクション展2014年度第2期 紹介映像 
(本映像は、横浜美術館との大学連携事業において、 城西国際大学メディア学部が制作いたしました)

1、戦後70年記念特別展示 戦争と美術
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川口軌外《群像》1941年 川口京村氏寄贈

第Ⅰ章 不穏な風景ー1920年代から第二次世界大戦までの前衛美術と戦争

ダダ、シュルレアリスム、新即物主義、構成主義――。第一次世界大戦後のヨーロッパでは、不穏な社会情勢を背景にして、さまざまなアヴァンギャルド芸術運動が花開きました。それらの前衛芸術家たちは、第二次世界大戦の勃発を機に、アメリカをはじめとした国外へと次々と亡命していきます。

日本では、大正期の新興美術運動に端を発して、1920年代には社会主義思想にもとづく芸術による革命を標榜するプロレタリア美術が隆盛、さらにフランスから帰国した里見勝蔵や佐伯祐三らによるフォーヴィスム、福沢一郎を中心としたシュルレアリスムなどが画壇を彩ります。しかし、「前衛」という名で括られるそれらの美術はやがて国家からの弾圧の対象となり、彼らの活動はほどなく途絶します。開戦にともなう翼賛体制下、藤田嗣治(ふじた・つぐはる)、小川原脩(おがわら・しゅう)、清水登之(しみず・とし)ら多くの画家が、「戦争画」の制作によって国家に奉仕することとなります。

本章では、両大戦間の日本の前衛美術運動の隆盛と終焉を軸に、名取洋之助率いる「日本工房」の写真などのルポルタージュ、そして中川一夫や師岡宏次(もろおか・こうじ)らによる当時の東京の風景・風俗写真などを交えて、その軌跡を辿ります。

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宮崎進《精霊の踊り》2001年 宮崎進氏寄贈

第Ⅱ章 焼け跡からー日本の戦後美術にみる戦火の記憶と傷跡

昭和20年(1945)8月15日、日本は昭和天皇の玉音放送をもって終戦を迎えます。疎開先の高田(現・新潟県上越市)で敗戦を知った濱谷浩(はまや・ひろし)は、その衝撃に家屋を飛び出し、虚空に浮ぶ真夏の太陽に向かってシャッターを切りました。

戦火の記憶は、若くして戦争を体験した画家たちに大きな傷を残します。満州で終戦を迎えた北岡文雄は、妻と生後間もない娘を連れた過酷な満州引き揚げの体験を、帰国後、記憶だけを頼りに版画作品として結実させます。また、大陸出征から奇跡的に生還した浜田知明(はまだ・ちめい)、宮崎進(みやざき・しん)らは、ともに収容所や戦地で見た光景を内在化し、戦後、繰り返し表現し続けました。

戦争の傷跡は、戦火というかたちを失っても、人々の生活に暗い影を落とします。連合国軍の最初の受け入れ地として戦後を歩み始めた横浜は、占領地の現実を体現しながら復興を成し遂げます。この混乱期に写真家として活動を始めた奥村泰宏(おくむら・たいこう)、常盤(ときわ)とよ子は、占領地ヨコハマの生々しい風景や風俗を、いち早く写真に収めました。

本章では、戦争の悲惨さ、愚かさを風化させないため、それぞれが体験し、苦悶した戦中・戦後の記憶を刻んだ、画家・写真家たちの作品を紹介します。

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中村宏《観光帝国》1964年

第Ⅲ章 ふたたびの「前衛」ー戦後日本美術の新たな展開  

戦争による断絶を経て、ふたたび「前衛」を標榜した美術家たちは、ゼロから新しい表現を生みだそうとする決意に満ちていました。    

昭和29年(1954)、関西の若い画家たちと具体美術協会を結成した吉原治良は、芸術制作とは自由の行為であり、個人の精神の表明であると考え、実験的な活動を展開します。足で絵を描いた白髪一雄(しらが・かずお)、掛け流しの手法で抽象画を描いた元永定正(もとなが・さだまさ)など、各々の自発性と自由な素材選択を重視した具体からは多彩な作家が誕生しました。

一方、パリでアンフォルメルの画家として活躍していた堂本尚郎らの働きかけにより、昭和32年(1957)、その主導者であり批評家のミシェル・タピエが来日します。タピエの来日は日本にアンフォルメル旋風を巻き起こし、同年以降、新しい表現を模索していた美術家たちの集う読売アンデパンダン展からは、60年代の前衛を担う篠原有司男(しのはら・うしお)、中西夏之らが登場しました。  

「戦争と美術」の最後に展示される柳幸典(やなぎ・ゆきのり)の《ヒノマル》(1991)は、日本人の名字が刻まれた数百の印で制作されています。国家として戦争に突入した日本。その日本を構成する無数の平凡な日本人。この作品は「戦争」「国家」「日本人」の関係について考えさせてくれます。
2、岡倉天心と日本美術院の作家たち
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横山大観《雲揺ぐ》1927年

明治31年(1898)、東京美術学校(現・東京藝術大学)の校長職を追われて野に下った天心・岡倉覚三(おかくら・かくぞう)が主導して設立された日本美術院は、作家たちが自由に研究を行う大学院のような機関として構想されました。天心の理想に共感した横山大観(よこやま・たいかん)、下村観山(しもむら・かんざん)らは、その創設に参画し、西洋美術や東洋、日本の古典を研究して新たな日本画の創出に腐心します。特に大観と菱田春草(ひしだ・しゅんそう)は、狩野派以来の線描重視を離れた絵画の制作に取り組み、それらは茫洋とした空間表現から発表当時、朦朧体(もうろうたい)と揶揄されましたが、現在では意欲的な試みの成果と見做されています。

大観ら日本美術院の第一世代の制作に刺激を受けた安田靫彦や今村紫紅ら第二世代も、主題の新たな解釈や、南画の描法とそのおおらかさを採り入れた「新南画」の画風をいち早く示すなど、革新的な制作で画壇の注目を集めました。一時運営が困難となった日本美術院は、天心が歿した直後に再興され、大観らを中心に、近代日本画界を牽引する画家達の活躍の場であり続けました。また、木彫の振興に力を注いだ天心の遺志を承け、再興時に彫刻部が設けられ、平櫛田中(ひらぐし・でんちゅう)らが木彫界の興隆に貢献しました。

このたびの「蔡國強展:帰去来」では、天心の薫陶を受けた大観らの日本画に触発された蔡氏の新作火薬絵画が発表されています。
3、ポール・ジャクレーと新版画
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ポール・ジャクレー 《真珠、中国東北地方》1950年
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2015 C0653

新版画は、創作版画と並んで、日本近代版画における二大運動の一つです。一時衰退していた浮世絵の絵師、彫師、摺師の協働による制作工程を活かして多色木版の美しさを復興し、絵師の創作性に重きを置いて新たな時代感覚を盛り込むことによって、浮世絵の近代化を図った運動でした。大正期、版元渡邊庄三郎(わたなべ しょうざぶろう)が、川瀬巴水(かわせ はすい)の風景画、伊東深水の美人画、山村耕花(やまむら こうか)の役者絵などを世に送り出し、新版画は人気を得ました。  

パリ生まれのポール・ジャクレー(1896-1960)は、父親が日本にフランス語教官の職を得たことから、母親と3歳で来日、11歳頃より浮世絵に強い関心を抱くと、日本画家池田輝方(いけだ・てるかた)、蕉園(しょうえん)夫妻に学んで肉筆浮世絵を描きます。浮世絵研究の泰斗藤懸静也(ふじかけ・しずや)に、外国人をモデルに描いた水彩画に基づく多色木版画の刊行を勧められ、彫師や摺師と協働での版画制作を始めます。自ら旅した朝鮮やミクロネシアの島々などの独特な風俗に取材したり、大首絵の構図で人物を描いたり、また布地の透ける表現を極めるなど、ジャクレーは、主題、技法ともに革新的な表現を示して新版画の系譜において特有の芸術世界を築きました。  

今回は、収蔵のジャクレー作188点から代表的な作品を紹介し、併せて橋口五葉や伊東深水らの新版画も展示します。
4、ホワイエ、グランドギャラリー:イサム・ノグチと近代彫刻

基本情報

会期2015年7月11日(土)~10月18日(日)
休館日木曜日
開館時間          10時~18時(入館は17時30分まで) 
※2015年9月16日(水)、18日(金)は20時(入館は19時30分)まで開館
主催横浜美術館

観覧料

一般500(400)円
大学・高校生                 
300(240)円                      
中学生
100(80)円
小学生以下無料                      

※( )内は有料20名以上の団体料金(要事前予約)
※毎週土曜日は、高校生以下無料(生徒手帳、学生証をご提示ください)
※障がい者手帳をお持ちの方と介護の方(1名)は無料
※毎月第3月曜日は横浜市在住の65歳以上の方無料(「濱ともカード」をご提示ください)
※企画展ご観覧当日に限り、企画展の観覧券でコレクション展もご覧いただけます。 

関連イベント

ギャラリートーク(コレクション展2015年度第2期)

日常の視点から観る、技法や材料から観る、新しい見方を発見する・・・。
さまざまな切口でエデュケーター(教育担当)が作品の見どころや楽しみ方を紹介します。

日程2015年7月17日、7月31日、8月7日、8月21日、9月4日、9月18日、10月2日、10月16日 
いずれも金曜日
時間いずれも14時~14時30分
※ただし、7月17日、7月31日、9月4日のみ15時~15時30分
会場コレクション展展示室
参加費無料 ※当日有効の観覧券が必要です
申込不要

トークセッション(コレクション展2015年度第2期)

版画家ポール・ジャクレーの養女であり、多くのジャクレー作品を当館にご寄贈くださった稲垣ジャクレー・テレーズ氏をお招きし、公開対談を行います。

出演稲垣ジャクレー・テレーズ、猿渡紀代子(当館特任研究員)          
日程2015年7月25日(土)
時間14時~15時(13時30分開場)
会場コレクション展展示室
参加費無料 ※当日有効の観覧券が必要です
定員40名
申込不要 ※当日12時より総合案内で整理券を配布します。  
トークセッション映像アーカイブ(2015年7月25日)

アーティスト・トーク(コレクション展2015年度第2期)

50年代の「ルポルタージュ絵画」運動、60年代の「観光芸術」など、戦後60余年にわたり「タブロー(絵画)」を探求し続けた絵画者・中村宏氏の創作の原点とその軌跡を伺います。

出演中村宏 (絵画者)                              
日程2015年8月23日(日)
時間14時~15時30分(13時30分開場)
会場コレクション展展示室
参加費無料 ※当日有効の観覧券が必要です
定員40名
申込不要 ※当日12時より総合案内で整理券を配布します。 
トークセッション映像アーカイブ(2015年8月23日)

夏休み子どもフェスタ2015(コレクション展2015年度第2期)

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作品に使われた画材の実物

中学校の美術の先生と当館エデュケーター(教育担当)が展示室に駐在し、夏休みの小・中学生の作品鑑賞をサポートします。
家族や友だちと一緒に、アートが私たちに届けてくれるさまざまな驚きをたくさん発見してください。
日程2015年8月8日(土)~8月12日(水)
時間10時30分~14時(受付は13時30分まで)
※2015年8月9日(日)のみ、13時30分~16時(受付は15時30分まで)
会場コレクション展展示室
対象小・中学生 
参加費無料 
※当日有効の観覧券が必要。 小学生以下無料。中学生は土曜日観覧無料。

美術情報センター資料特別展示 コレクション展2015年度第2期連動企画 

戦後70年特集:美術情報センター所蔵資料にみる
戦時体制下の美術教科書

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(参考図版)

美術情報センターでは、この夏、戦後70年を迎えることから所蔵する「中村文庫(※)」より、戦時体制下に文部省が発行し、使用されていた美術の教科書『エノホン』『初等科工作』など16件の資料を展示しています。
昭和16年3月に「国民学校令」が公布されると、小学校は「国民学校」と改称され、美術の教科書においても、軍需産業に直結する製図や航空機教材も多くなりました。そんな戦時下の様子が資料よりご覧いただけます。
なお、開催中の横浜美術館コレクション展第2期では、「戦争と美術」をテーマに展示を行っています。展示では絵画、写真、立体作品などと共に、美術情報センター所蔵の雑誌などを展示室でご覧いただいています。
ぜひ展覧会とあわせて美術情報センターの展示をご覧ください。

※「中村文庫」:昭和63年、当時鎌倉女子大学教授であった中村亨氏が、永年にわたって蒐集した日本の美術教育に関する資料1,961点の寄贈を受けたものです。

会期
2015年8月7日(金)~10月31日(土)        
時間
10時~18時(入室は17時30分まで)
休室日
木曜日
料金
入場無料(コレクション展入場には観覧料が必要です)
場所
美術情報センター