菅 木志雄 スタンス

展覧会概要

菅木志雄(すが きしお)は、1960年代末から70年代初めに現れた「もの派」と呼ばれる一群のアーティストを代表する作家として、内外の高い評価を得てきました。
「菅木志雄―スタンス」展は、彼の実作と思考の「現在」を、この展覧会のために新しく制作される作品12点によって紹介するものです。菅木志雄をはじめとする「もの派」の作家たちの仕事は主として、作品となる素材にほとんど手を加えることなく、「もの」と「もの」とを組み合わせて空間のなかに並べ置くものですが、イタリアの「アルテ・ポーヴェラ(貧しい美術)」や、60年代から70年代初頭のアメリカ現代美術、とくに「ミニマル・アート(最小・最少の美術)」と呼ばれた動向と、その手法の面ばかりでなく、先行する美術の制度を乗り越えようとする時代精神において、共通点をもっていました。菅木志雄は、こうした動向や、作品を広大な野外に仮設する「アース・ワーク」などに関心を寄せながらも、内外の近代美術と同時代の美術への根底的な批判を備えた独自の制作のあり方を探求しました。

菅木志雄が木、石、砂、建築部材などを素材として選択するとき、そうしたさまざまな「もの」は、出来上がる作品を組み立てるためのパーツではありません。菅木志雄の作品では、個々の「もの」とそれを取り囲む周りの空間とのかかわりや、「ものが空間におかれるとはそもそもどういうことなのか」という問いかけがつねに含まれています。そうすることで、「美術作品」をただちに作家の思考の結論や制作過程の帰結とみなすことが、反ばくを加えられているのです。菅木志雄の作品に見られる、未加工の部分、無造作な素材の形と物質感は、人の手を仲立ちにする前の素材そのものや、人とはかかわりなく存在する自然の方が、よりいっそう「完成物」に近いのだという作者の考えを物語っています。しかしそうした考えをほんとうに目に見えるようにするは、一方で強じんな思考や論理に支えられた「つくること」が必要になることをも、菅木志雄の作品はよく表しています。本来ならば矛盾するはずの「つくること」と「つくらないこと」が、菅木志雄の制作行為では絶妙に共存しています。そして、ふだんは「つくられたもの」をいかに展示し観賞するかに力点がおかれている展覧会のあり方もまた、菅木志雄の作品によって明かな変更を迫られます。このような菅木志雄の一貫した制作の姿勢は、制作をコントロールしようとする作家の強固な自意識が作品の成り立ちの基盤とみなされる西洋近代美術や、そうした基盤のないところであいまいにスクラップ・アンド・ビルドをくりかえしてきた日本の近・現代美術に対する、きわめて重要な批判的指針をもつものといえます。菅木志雄は、近年アトリエを設け、制作のシステムに新たな要素を取り入れながら、絶えず先鋭的な活動をつづけています。本展では、作家が初めて監督した映像作品《存在と殺人》(1998-99年)の上映を会期中に行います。ここでは、「見えないもの」が「見えるもの」を支えていること、あるいは「見えるもの」の不確かさという、菅木志雄の造形作品でもしばしば登場する視覚をめぐるシステムが、ひとつの殺人事件を軸に展開されており、一種の「不条理な犯罪劇」と呼ぶべきユニークな内容となっています。また、そうした実作の紹介に併せて、彼の活動のもうひとつの柱をなしてきた理論活動を、著述選集を編集・発刊することでふりかえります。