ヴェナンツォ・クロチェッティ展 ―いのちのうた―

展覧会概要

現代イタリア具象彫刻界を代表する作家のひとり、ヴェナンツォ・クロチェッティは、1913年にイタリア中部のジュリアノーヴァに生まれました。少年期に両親を亡くし、地元の工芸高校でデッサンを学んだ後、1928年に美術品修復見習いとしてローマに出ました。1930年頃からローマの動物園で動物デッサンに専心するようになり、彫刻に目覚めていきます。1934年には第19回ヴェネツィア・ビエンナーレに出品、1938年の第21回同展ではイタリア彫刻大賞を受賞し、彫刻家としての地歩を固めました。戦後はヴェネツィア、フィレンツェ、ローマの各美術学校で彫刻講座を担当、日本人作家を含む多数の後進の育成に務めるとともに、ヴァチカンの聖ピエトロ寺院の青銅扉を制作し、その高い芸術性を証明しました。また、イタリア、日本で個展を開催する他、エルミタージュ美術館に作品を寄贈するなど、85才を超える今日まで、その旺盛な制作意欲は衰えを見せません。

クロチェッティの作風はあくまで自然の形態に依拠しつつも、個々の細部の表面的な再現を越えた、普遍的な形態に迫ろうとする姿勢が一貫してうかがえます。あたかも現代の三次元スキャナーで運動のメカニズムを解析するように、彫刻家は生きるものの心が生み出すほんの瞬間の動きを、頭部、四肢、胸部、腹部、臀部など基本形態の連関によって捉えます。人物の表情、衣服など細部は簡潔な表現ながら、全体の運動感を決定づける重要な役割を担い、正に心の表現が達成されています。大地に豊饒を体現する母性から、重力の法則をいとも軽々と飛び越える踊り子まで、あるいはまた、戦争の惨禍を想起させる、子を失った母親の叫びから、己の罪に苦悶するマグダラのマリアまで、クロチェッティは実に幅広い表現を獲得してます。そうした彼の創作の奥深さの中に、いつしか私たちは絶えることのない生命の賛歌に耳を澄まし、ひとりの敬虔な芸術家の姿を見いだすことでしょう。本展覧会は、マエストロ・クロチェッティが今日まで手元に残してきた初期の1930年代から各時代の代表作、そして本展のために制作された最新作から成る彫刻約70点、素描約20点によって構成されます。これまでまとまって紹介される機会のなかったクロチェッティ芸術の全貌を、日本で初めて紹介いたします。