篠山紀信展 学芸員コラム vol.2 篠山紀信さんのアーティストトークが開催されました

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展覧会開幕後初めての週末となる1月7日(土)の午後、横浜美術館レクチャーホールに満員のお客様をお迎えして、篠山紀信さんのアーティストトークが開催されました。

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これまで美術館で写真展を開くことを避けてきたと語る篠山さん。それは、写真を「もっと活きのよいもの」と考える篠山さんにとって、小さな写真を額に収めて飾る美術館があたかも「写真の死体置場」のように思われ、また、現役の写真家であるにも関わらず回顧展と見られかねないことに違和感を覚えたからでした。そんな篠山さんが今回の展覧会を決意したのは、時代を象徴する力強い写真が巨大に引き伸ばされ、美術館の非日常的な大空間に並べられたときにおこる壮絶な闘い――すなわち「写真力と空間力のバトル」に、新たな意義を見出したからだと話されました。

「時空や虚実を超えて、脳裏に強くインプットするイメージの力」。篠山さんの語るこうした「写真力」のこめられた写真について、約30点の出品作をとりあげ、それぞれのエピソードを紹介してくださいました。それは撮影時の状況や背景であったり、現場でのモデルとの対話や無言のやりとりであったり、技術の進歩に柔軟に対応していく写真家の姿勢であったり、発表後の世の中の反応であったり......。

「写真力」を考えるにあたり、人物写真、なかでも皆が知っている人たちの写真が最適に思われたと、篠山さんは語ります。それは、有名人の写真であれば観る人がそれぞれ個人的な対話ができるからと。トークのなかで私自身がもっとも興味を抱いたのが、「その人をもっとその人らしく撮る」という篠山さんのポリシーです。渥美清は皆が知る寅さん姿で、アイドルはもっと可愛くアイドルらしく。女優は役になりきってさらに美しく。女優の仮面を剥がして素の人間を写すのではなく、むしろ嘘の上に嘘をつくこと、仮面の上にさらに仮面を重ねることによってこそ、その人のリアリティを獲得できるという考えです。

「松田聖子ごっこやらない?」という篠山さんのリクエストに応えてポーズをとってくれたという水着姿の松田聖子。デビュー25周年を記念した写真集のために撮影されたこの写真から、「赤いスイートピー」の松田聖子、そして1980年代の空気が立ち現れてきます。モデルの傑出した自己プロデュース能力と、その決定的な瞬間を逃さない写真家。篠山さんのいうよりリアリティのある写真は、こうしてうまれるのだと納得しました。

リアリティのある写真。ぜひ篠山紀信展の会場で体感してみてください。

次回のコラムもどうぞお楽しみに。

(長谷川珠緒)