篠山紀信展 学芸員コラム vol.1

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写真家、篠山紀信さんの半世紀にわたる仕事のなかから、芸能、スポーツ、美術、音楽など、さまざまな分野で活躍する「有名人」の肖像を中心に紹介する展覧会「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」。このコラムでは、本展にまつわる話題や作品の魅力を、3人の担当学芸員がリレー形式でご紹介します。初回は、大澤紗蓉子が担当します。

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1月4日、新春にふさわしいおだやかな天気に恵まれ、横浜美術館の2017年最初の展覧会として「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」が開幕しました。初日からたくさんのお客様がお越しくださるなか、美術館のグランドギャラリーで篠山紀信さんも出席して開会式が行われました。

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開会式では、逢坂恵理子館長と篠山紀信さんのあいさつの後、特別に、篠山さんご本人が展示室で作品について語るギャラリートークが開催されました。展示室いっぱいに集まった人々が耳を傾けるなか、篠山さんは山中湖での山口百恵さんとの撮影のエピソードをはじめ、「現代の浮世絵」を創作したいという想いから、高感度のデジタルカメラを用いて撮影した歌舞伎役者のシリーズなど、本展を構成する「GOD」「STAR」「SPECTACLE」「BODY」「ACCIDENTS」の各セクションの代表作を選んで、ユーモアを交えつつ熱くお話しされました。

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ギャラリートーク中の篠山紀信さん

このギャラリートークのなかで、特にわたしの印象に残ったのは、本展の最後に展示されている、東日本大震災で被災された方たちの肖像写真にまつわるお話しでした。震災から50日後に撮影された10枚の肖像は、いずれも高さ約2m40㎝、幅約1m90㎝と、等身を超えるサイズで、男性、女性、ご夫婦、親子、兄妹など、いわゆる「有名人」ではない方たちが写しだされています。

これまで、「写真家は時代の写し鏡であり、突出した出来事や人を撮らねばならない」と明言してきた篠山さんは、この未曾有の大震災にどのように向き合うことができるか、しばらく考えていたといいます。そんななか、ある編集者の方に背中を押され、4回ほど被災地を取材することで、ようやく『ATOKATA』(2011年)という写真集をつくることができたと述べられました。このとき、同時に撮影されたものが、本展の「ACCIDENTS」に出品されている肖像です。

取材中、被写体となってくださった方たちの多くは、とても複雑な思いを抱えていたと篠山さんは語りました。家をなくしただけでなく、家族や親戚もいまだ行方不明という状況のなかで、疲労や無力感と、これから前を向いて進まなければという想いが混在していた時期だったそうです。そうした心情をもつ方たちに対して、篠山さんは一人一人のお話しを聞き、8×10(エイトバイテン)の大判カメラにすべてをゆだねて、僕はただシャッターを押しただけと話されました。

トーク終了後、その場にいらしたお客様がわたしに、「全員がとても言葉にし難い、見たことのない表情をしていますね」と声をかけてくださいました。これは、展覧会という場で、この大きさの写真に向き合うからこそ、より一層強く意識されることだと思います。

「この展覧会は美術館の大空間と圧倒的インパクトのある写真との戦い。つまり空間力VS写真力のバトルです。鑑賞ではなく体感!是非ご自身の体をその空間の中に浸してみて下さい。」

篠山紀信さんが本展に寄せられた言葉です。展示室で写真をみたとき、そこで何を感じ・何を考えるかは、見る人によって異なります。さきほどのお客様の言葉は、篠山さんが写真に非日常的な大きさを与えたことの意義が、見る人それぞれの記憶や感情を喚起するためであることの端的な現れであると思います。同時に、「写真家は時代の写し鏡」と話される篠山さんの言葉の深さを、改めて教えてくださるものでした。

このように本展は、展示室に一歩入ると、写された人々について、撮影された時代について、あるいは篠山紀信さんという写真家や写真そのものについてなど、さまざまな思いが去来する展覧会です。2017年2月28日(火)まで開催されています。皆さまのご来館をお待ちしております。

次回は1月7日に開催されたアーティストトークについてご紹介します。

(大澤紗蓉子)