蔡國強展スタッフコラム 第5回 爆破制作秘話その2

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第5回

爆破制作秘話その2
紙の調達

火薬絵画《夜桜》の支持体となる和紙は3×4メートルの巨大な厚手の和紙です。これを16枚つなげて大きな画面が作られています。難しそうな買い物に思われましたが、蔡さんがいつも頼んでいるという高知県の手すき和紙の工房から入手することができ、ほっと一息。しかし、リストには他の種類の紙も書かれています。
クラフト紙(1800mm×30000mm)、ボール紙(800mm×1100mm  800枚)、板ダンボール(1200mm×900mm)、グラシン紙(1600mm×100000mm )10本。
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(グラシン紙とは、こんな紙です。)

最初の三つはよく見る紙ですが、グラシン紙はあまり一般的ではないようです。マフィンなどの焼き菓子や傷んだ古書のカバーに使う半透明の紙といえば思い出 していただけるでしょうか。蔡スタジオからの指示は、「コーティングしていない、中性のもの」そして、厚さや硬さについても細かい条件があります。ニュー ヨークの画材店に注文するようにという指示ですが、160センチ×100メートルのロール10本をNYから空輸すると、輸送費だけでも大変そうです。まずは日本国内で探すことにしました。が、調べてみると、小売されているグラシン紙は、30〜50センチ角にカットされているものばかりです。思い切って製造 元のN社に問い合わせてみると、蔡さんのオーダーにぴったりのグラシン紙を製造していることがわかりました。しかし、グラシン紙は、需要が少ないので常に 製造しているわけではなく、また、工場で製造する紙は幅数メートル、長さ数百メートルにもなる巨大なロールで出来上がるので、幅160センチ、長さ100 メートルのロールを10本だけを作ることは不可能という話です。
がっかりして、NYの画材店に発注しようと話し合っていたまさにその時、N社から再び電話がかかってきました。たった今グラシン紙の受注があったので、製造にはいることになった。ついでに100メートル巻き10本も特別に作りましょうという親切な申し出です。N社のみなさんも、自社製品がアートに使われることに関心を持ち、この機会に特別に小さなロールを作ってくださることになったのです。このような幸運に恵まれ、100メートル巻きのグラシン紙10本は、爆破制作の数日前に無事納品されたのでした。

蔡さんの火薬 絵画の制作にとってグラシン紙がいかに重要かは、爆破制作の現場を見て納得がいきました。蔡さんは、多くの場合、火薬を撒いた画面の上にグラシン紙をかぶ せて爆破します。熱に強く、薄く、しなやかなグラシン紙の特性を利用して、煙をその中に封じ込め、煙が流れる痕跡を画面に定着させるのです。《夜桜》でも、火薬が激しく炸裂したときに紙についた焦げ跡だけでなく、その周囲に朦朧体のような"ぼかし"がかかっているのを見ることができます。まるで、湿らせた紙に薄く墨を流したようです。蔡さんは、グラシン紙の被せ方、その上に板段ボールや重石の乗せる位置を工夫することで煙の流れを操作し、潤いのある画面を作っているのです。できあがった作品をながめて、改めてグラシン紙の重要さに気づき、調達にご協力くださったN社のみなさんのご協力がありがたく感じられました。(沼田英子)

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爆破後のグラシン紙。少し焦げています。(撮影:上山陽介)