石田尚志展 スタッフコラムvol.10 「渦まく光」展潜入レポートno.7

「石田尚志 渦まく光」展手伝いの祢津です。

今回は、5月5日に行われた、こどもの日ワークショップ 親子講座「動く絵をつくろう!」についてレポートします。

10:00、「子どものアトリエ」にあつまった25組、およそ60人の親子連れの前で、石田さんは話しはじめました。

「きょうは、いまから、みんなで映画をつくります。」

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参加者がおもいおもいの場所に座っている長いテーブルには、透明な、ビニールのテープが延びていました。それは「16mmフィルム」。1960年代に入ってビデオが普及しはじめるまでは、劇場映画も、テレビ番組も、世の中の映像の多くがこの16mmフィルム(または35mmフィルム)に撮影されていました。石田さんの作品《フーガの技法》や《白い部屋》の一部も、16mmフィルムの映像でできています。いまではデジタルビデオに王座をゆずり、一部の映画作家たちに愛されながら細々と使われているこの古いメディアに触れたことのあるかたは、子どもはもちろん、大人たちのなかにもひとりもいませんでした。石田さんはフィルムの切れ端を参加者にかかげました。「ここに、自由に絵を描いてださい。それが、そのままキレイな映画になります。」このビニールテープがどうやって映画になるのだろう?......フィルムは「映写機」という道具に入れて使うこと、フィルムの脇に並んでいる穴は「パーフォレーション」ということ、小さなコマが「24個で一秒間」の映像になること......石田さんの話を親子でききいる参加者たちの眼が輝いてきます。

それから、親子そろってフィルムの上に色とりどりのマジックや先のとがったピンで絵を描きました。驚いたのは、よそ見をしている子どもたちがいないこと。もっとおどろいたのは、大人がすごく、もしかすると子どもと同じくらい真剣だったことです。......細いフィルムの上のちいさな余白に、お子さんともつれあうように手をのばして絵を描いていたお父さん。いつしか絵がフィルムをはみ出して机のうえに広がっていった親子。......一時間ほどの制作時間はあっという間にすぎて、フィルムは線と色でぎっしり埋まりました。

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そのフィルムを、石田さんのアシスタントの川本直人さんたちがどんどん繋ぎます。川本さんも映像作家で、その作品はフィルムの上に色や傷を直接つけていく技法によって制作されています。川本さんは、まさに、このワークショップの専門家というわけです。

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繋がった長いフィルムを映写機に入れてスイッチを入れると、スクリーンに映し出されたのは、さきほど指先ほどの大きさのフィルムのコマに描いた線や塗った色。「一秒間で24回」、めまぐるしくうつりかわっていきます。動き出した絵におどろきの声をあげる子どもたち。それと同じくらい興奮している大人たち。そして、石田さん、「子どものアトリエ」スタッフ。全員が暗闇の中で、輝くスクリーンの上の「動く絵」に向けて歓声をあげつづけました。フィルムは映写機の中をかけぬけ、5分ほどで終了。

上映のあと、石田さんは最後にとっておきのイベントを用意していました。じつは、このワークショップで行った16mmフィルムへのお絵描きは、80年以上まえ、1930年代に先鋭的な映画作家たちによる映像の実験から生み出された表現手法でした。「シネカリグラフィー」や「ダイレクト・ペインティング」と呼ばれています。石田さんは、この手法でたくさんの傑作を残した実験映画の巨匠レン・ライ(Len Lye)の作品をスクリーンにうつしました。そしてその横に子どもたちがつくったシネカリグラフィーを並べてうつし、スクリーンの前に手をかざしました。「みんなで光をつかまえてみよう!」と、石田さん。

そのかけ声から、手を上げ、立ち上がり、映像のなかに飛び込んでいく子どもたち。そのすがたは、人間とアートの、もっとも幸福な関係をうつしだす光景に思えてなりません。子どもと大人たちの描いた線と色は光になり、80年まえの大先輩の映像の光と重なって、もう一度彼らの小さな手のひらの中に戻っていきました。

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......石田さんも、この「シネカリグラフィー」の技法を用いた作品《光の絵巻》(2011)を、映画作家の牧野貴さんと共作しています。そして、5月30日(土)、横浜美術館で開催されるイメージフォーラム・フェスティバル2015にて、この作品と、シネカリグラフィーのマスターピース2作品を含む特別上映プログラム「光の光、闇の闇」が開催されます。このプログラムには、石田さんと牧野貴さんが古今の抽象映画を熱く語る特別講座も含まれています。また、同じ日には、石田さんのレクチャー付き上映プログラム「光によって延長してしまった遠近法」も開催します。詳しくは特設サイトをご覧ください。

(編者註:イメージフォーラム・フェスティバル2015横浜特別プログラム『光によって延長してしまった遠近法』は5/30 16:00‐、『光の光、闇の闇』は5/30 18:30‐、どちらも横浜美術館レクチャーホールにて。有料。)

(袮津)